HHD’s blog

線路のある風景

「井」の思い出

 私は子供の頃から鉄道が好きだった。車両を見たり乗ったりするのはもちろん大好きであるが、何が一番好きかと聞かれたら多分「線路」と答えると思う。線路に関しては色々な思い出があるが、今思い出しても思わずにんまりとしてしまう出来事がある。

 小学校の1年か2年の時であったと思う。国語の授業中のことだった。私は先生の授業がつまらなくて退屈していた。寝るわけにもいかないので何か楽しいことを考えようとした。その時に私の頭に浮かんだのが神戸市電の走る風景だった。物心がついた時から何度も乗っていたので、沿線の風景は頭に焼き付いていた。その中でも強く印象に残っていたのは尻池交差点のダイヤモンドクロスだった。ダイヤモンドクロスとは線路が直角に平面交差する部分のことで、私はこの部分の形が好きでノートにこの形である「♯」をいくつも書いていた。この作業に集中していた私は自分の世界に入り込んでしまっていた。ふと目を上げると先生が私の前に立って私のノートをのぞき込んでいた。

「しまった。叱られる」

私はとっさに観念した。しかし先生の反応は私の予想とはまったく違ったものだった。

「ほう、難しい字を知っていますね。」

そして先生は私のノートをみんなに見せて黒板に大きく「井」と書いた。そしてこれは漢字で「い」と読みますと言いながら説明を始めた。私は恥ずかしくてその場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。早く先生の授業が終わらないか、そればかりを考えていた。


 線路のダイヤモンドクロスは今はほとんど見ることができなくなってしまったが、私が大学生だったころ、阪急の西宮北口駅神戸線今津線の線路がダイヤモンドクロスになっていた。しかしその後、駅の改修工事の一環でダイヤモンドクロスはなくなってしまった。

 この前、西宮北口駅のホームで電車を待っていた時、ふとダイヤモンドクロスのことを思い出した。その時、私の頭に「井」の字が浮かんだがすぐに消えた。

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