HHD’s blog

線路のある風景

借金だるま

 2015年9月にNHKの番組で阪急電鉄宝塚歌劇団などの阪急グループの創始者である小林一三の生涯を描いたドラマ「経世済民の男」が放送された。そのドラマの中で巨大なだるまが登場した。「借金だるま」と名付けられたそのだるまは、見た目はどことなくコミカルなのだが小林一三が大きな事業に手を出そうとすると登場し、小林をおびえさせた。

 この当時、私は契約社員としてある企業に勤めていた。人工透析による障害者雇用枠で採用された私は、契約社員での雇用形態は仕方がないものと理解はしていたので給与面での待遇には不満はなかった。しかし、正規雇用の社員との差別待遇は残念ながらあった。福利厚生、研修など正規雇用者には適用されても契約社員には適用されない、会議等で自分の意見を言う機会がまったくない等、仕事を続けて行く上でのモチベーションを維持することができない状況に陥っていた。私は給料は下がってもいいので自分の意見や考えを発信することができる会社への転職を考えていた。しかし、ちょうどこの頃、息子の大学進学に伴い予期せぬ出費がこれでもかと言わんばかりに私に襲い掛かってきた。そしてNHK小林一三のドラマをみてから私の夢の中に「借金だるま」が何度も登場し、そのたびにうなされるようになった。

 会社の帰りに神戸駅のホームで電車を待っていると、ゆっくりと電車がホームに入ってきた。何気なく運転席に目をやると運転手は「借金だるま」だった。軽いめまいを感じながら電車に乗る。私は倒れ込むように空いている席に座った。当分、今の会社を辞めるわけにはいかないようだ。私の口から深いため息が自然とついて出た。

 あれから5年余りの歳月が流れた。息子は大学を卒業し、独立してくれたので私も経済面では楽になり「借金だるま」におびえることはなくなった。そして私は転職し給与は大幅に減ったが、今は自分の好きなことを最優先にする生活を送っている。けれども「借金だるま」におびえて暮らしたあの当時の日々がなぜだかわからないのだが今となっては愛おしい。

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