安芸幸崎駅
厳しかった冬もようやく終わりを告げて、満を持して出かけたのがこの旅だった。三原で新幹線から呉線の電車に乗り換えて、須波駅で降りていつものように歩き始めた。ついこの間までの寒さがウソのようなポカポカ陽気だった。おだやかな瀬戸の海が目の前に広がっていた。
目的地の安芸幸崎の駅で疲れた足を休めていると、どこからともなく花の香りが漂ってきた。やさしい時間がゆっくりと流れていた。当時、私は大阪市内の会社の独身寮に入っていたが、週末は兵庫県三木市にある実家に帰ることが多かった。この旅の帰りも独身寮には帰らず、実家に帰った記憶がある。だれかが待ってくれている家があることがどんなに有難いことか、当時の私は今ほどにはわかっていなかったが、実家が近づくとほっとした記憶がある。この旅の帰途に乗った国鉄三木線は、その後、第三セクターの三木鉄道となって奮闘したが、2008年に廃止となってしまった。そして私の実家も母が老人ホームに入居してからはしばらく空き家となっていたが、売却し今はもうない。