HHD’s blog

線路のある風景

飯田線と中島みゆき

 私が大好きな鉄道紀行作家の宮脇俊三の著作である「旅の終わりは個室寝台車」の中で、中島みゆきが登場する箇所があったことを思い出して読み返してみた。飯田線を各駅停車で全線完乗する旅の中で、編集者で同行者の藍君が中島みゆきのファンで、宮脇先生に自分のウオークマンで中島みゆきの曲を聴かせる場面があった。宮脇先生は中島みゆきを知らなかった。

 女は「今夜だけでもきれいになりたい」と唄い、飯田線伊那谷を走る。線路の継ぎ目の響きが通奏低温のように伝わってくる。
 耳から歌、眼に車窓風景、尻からは線路の振動、いわば超総合芸術で、それなりに面白くないこともなかったが、テープ一本聴き終わったときは、少々うんざりした。
「どうですか、中島みゆきのファンになりそうですか」
と藍君が訊ねる。
「大丈夫、ファンにならなくてすみそうです」

 私は読み返してみて思わず笑ってしまった。30年以上前に読んだ本なのに今でもしっかりと記憶に残っていた。そして私は今年に入ってから遅ればせながら中島みゆきのファンになった。宮脇先生が亡くなって今年でもう19年になる。宮脇俊三の新刊が出るといつも本屋に行って買っていた頃が懐かしい。もし飯田線に乗る機会があったら、車窓風景を眺めながらぜひ中島みゆきの曲を聴いてみたい。

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飯田線三河川合駅